第1章 経営戦略の基礎

1-1 経営理念・ビジョン・経営戦略

企業の方向性を決定づける最上位の概念が「経営理念」「経営ビジョン」であり、それを実現するための具体的な方策が「経営戦略」です。これらは明確な階層構造を持っています。

1. 経営理念(Management Philosophy)

経営理念とは、企業の「存在意義(パーパス)」「基本的価値観」を示すものです。

一般的に、創業者の思いが込められており、時代や環境が変わっても基本的に不変であるべきものとされています。

  • 役割: 社員の行動規範となり、組織の求心力を高める。社会に対してどのような貢献をする企業なのかを宣言する。
  • 具体例: 「情報革命で人々を幸せに」(ソフトバンク)、「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」(Amazon)

2. 経営ビジョン(Management Vision)

経営ビジョンとは、経営理念に基づき、企業が「中長期的に実現したい将来のありたい姿」を具体的に描いたものです。

経営理念が不変であるのに対し、ビジョンは環境変化や企業の成長ステージに合わせて見直されることがあります。

  • 役割: 組織が進むべき具体的なゴールを示し、社員のモチベーションを喚起する。
  • 具体例: 「2030年までに業界トップシェアを獲得し、売上高1兆円企業となる」

3. 経営戦略(Management Strategy)

経営戦略とは、経営ビジョンを達成するために、限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)をどのように配分し、市場でいかに競争優位を築くかを示す「基本方針・計画」です。

  • 役割: 環境(外部環境・内部環境)を分析し、最適な事業ドメインと競争の手法を決定する。
  • 特徴: 環境の変化(競合の動き、技術革新、顧客ニーズの変化など)に応じて、柔軟かつ頻繁に見直される

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【試験のポイント】

階層構造(理念 > ビジョン > 戦略)と、それぞれの「不変性・可変性」の違いが頻出です。

  • 経営理念:不変
  • 経営戦略:可変(環境適応)

1-2 企業ドメインとエイベルの3次元枠組み

経営戦略を立案する際の第一歩は、「自社がどのような事業領域で活動するのか」を定義することです。これを「企業ドメイン(事業領域)の定義」と呼びます。

1. 企業ドメインの役割

ドメインを明確に設定することには、以下の重要な効果(機能)があります。

  1. 活動領域の明確化: 限られた経営資源の分散を防ぎ、集中すべき領域を定める。
  2. アイデンティティの確立: 「我々は何の会社なのか」を社内外に示し、組織の一体感を醸成する。
  3. 将来の方向性の提示: 今後どのような分野に進出(あるいは撤退)すべきかの判断基準となる。

2. 物理的定義と機能的定義

ドメインの定義方法には大きく2つあります。環境変化の激しい現代では、「機能的定義」を行うことが推奨されています(マーケティング近視眼の回避)。

  • 物理的定義: 「モノ」を中心とした定義。

* 例:「当社は『鉄道会社』である」 → 自動車や航空機が発達すると衰退するリスク(マーケティング近視眼)。

  • 機能的定義: 「顧客に提供する機能・価値」を中心とした定義。

* 例:「当社は『人やモノの移動サービスを提供する会社』である」 → ニーズに応じた柔軟な事業展開が可能。

3. エイベルの3次元枠組み(Abell's Framework)

デレク・エイベルは、ドメインを以下の「3つの軸(3次元)」で定義すべきであると提唱しました。

  1. 顧客層(Who): 誰に提供するのか?(ターゲットセグメント)
  2. 顧客機能(What): どのようなニーズを満たすのか?(提供価値)
  3. 技術・代替手段(How): どのような技術やノウハウで実現するのか?(コア技術)
【具体例:任天堂のドメイン推移】
* 過去: Who(全年齢)× What(暇つぶし)× How(花札・トランプ製造技術)
* 現在: Who(全年齢)× What(驚きと笑顔のエンターテインメント)× How(独創的なゲーム機・ソフト開発・IP活用)

この3次元をどう設定し、環境変化に合わせてどうシフトさせていくか(ドメインの再定義)が、企業の存続を左右します。

1-3 経営戦略の階層(全社・事業・機能別)

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