第2章 競争戦略と外部環境分析

2-1 業界の競争構造分析(ファイブ・フォース分析)

M.E.ポーターが提唱した「ファイブ・フォース(5つの競争要因)分析」は、特定の業界の「収益性(魅力度)」を決定づける5つの脅威(力)を分析する外部環境分析のフレームワークです。

この5つの力が強い業界ほど、企業は利益を出しにくく(魅力が低い業界)なります。

業界の収益性を決める5つの「力(フォース)」

① 新規参入業者の脅威

業界外から新しい企業が参入してくる脅威です。参入業者が増えると価格競争が起き、利益が減少します。

  • 参入障壁が高いほど脅威は小さい: 「規模の経済性が働く」「巨額の初期投資が必要」「既存企業が強力な特許やブランドを持つ」「強力な流通チャネを既存企業が押さえている」などの場合、新規参入は難しくなります。

② 代替品の脅威

顧客の同じニーズを満たす、他の業界の製品・サービスへの乗り換えの脅威です。

  • (例)鉄道に対する航空機、デジカメに対するスマートフォン。
  • 代替品の「コストパフォーマンス」が高いほど、自社業界の製品の価格に上限(これ以上高くすると乗り換えられる)が設定されてしまい、収益性が圧迫されます。

③ 売り手(サプライヤー)の交渉力

部品や原材料を供給する業者の力関係です。売り手の力が強いと、高い仕入れ値を押し付けられ、利益が圧迫されます。

  • 売り手の力が強くなるケース: 売り手業界が寡占状態にある、売り手の部品の独自性が強い(スイッチングコストが高い)、買い手が売り手にとって重要顧客ではない、売り手がこちらの業界に進出(前方統合)するぞと脅してくる場合。

④ 買い手(顧客)の交渉力

製品を買ってくれる顧客の力関係です。買い手の力が強いと、厳しい値下げ要求や品質向上の要求を受け、利益が圧迫されます。

  • 買い手の力が強くなるケース: 買い手業界が寡占でこちらが多数、製品が標準化(コモディティ化)していて他社にすぐ乗り換えられる(スイッチングコストが低い)、買い手が自前で製造(後方統合)するぞと脅してくる場合。

⑤ 既存業者間の敵対関係(同業他社)

業界内での激しい競争(値下げ競争・過剰な広告合戦など)の度合いです。最も直接的な要因です。

  • 競争が激化(力が強く)なるケース: 同規模の競合企業が多数存在する、業界の成長率が低い(パイの奪い合い)、固定費が高い(固定費回収のために無理な安売りをする)、撤退障壁が高い(赤字でもやめられず泥沼化する)、製品の差別化が難しい。

---

企業は、これら5つの力が「弱い」業界(ニッチな市場など)を選ぶか、あるいは独自の戦略でこれらの力を自社に有利に変える(弱める)ことが求められます。

2-2 戦略グループと移動障壁

同じ業界の中にいても、企業が採用している戦略(ターゲット層や価格帯、流通チャネルなど)は様々です。この違いを分析する概念が「戦略グループ」です。

1. 戦略グループ(Strategic Group)

業界内で、「類似の戦略特性を持ち、類似した経営資源を持つ企業の集団」を経営戦略論では「戦略グループ」と呼びます。

ポーターは、業界全体を一つとして見るのではなく、戦略グループ単位に細分化して分析することが重要だと主張しました。

  • 具体例(自動車業界): 「高級車グループ(ベンツ、BMW)」「大衆車フルラインナップグループ(トヨタ、VW)」「軽自動車特化グループ(スズキ、ダイハツ)」など。
  • 特徴: 同一の戦略グループ内にいる企業同士は、顧客層が完全に被るため、グループ内の競争は極めて激しくなります。

2. 移動障壁(Mobility Barriers)

企業が、ある戦略グループから別の、より収益性の高い戦略グループへ移動(参入)しようとするときに立ち塞がる壁(困難さ)のことを「移動障壁」と呼びます。

  • 参入障壁との違い:

* 参入障壁: 「業界の外」から「業界の中」に入ってくるのを防ぐ壁。

* 移動障壁: 「業界の中」で、ある「戦略グループ」から別の「戦略グループ」へ移動するのを防ぐ壁。

  • 具体例: 大衆車メーカーが「高級車グループ」に入ろうとしても、「高級ブランドとしての長い歴史」「特約店・高級車向けディーラー網」「独自技術」といった移動障壁に阻まれます。

移動障壁が存在するからこそ、同じ業界内であっても、戦略グループごとに収益性(利益率)に差が生まれ、それが継続するのです。

2-3 ポーターの3つの基本競争戦略

残り 2 セクション

続きは無料登録でお読みいただけます

7日間無料で始める