第6章 組織構造と設計

6-1 組織設計の5原則

経営戦略を実行するためには、それを担う「組織(人々の集まり)」を適切に設計・編成する必要があります。組織論の古典的なアプローチにおいて、効率的な組織を作るための基本として「組織の5原則」が提唱されました。

1. 専門化の原則(分業の原則)

  • 内容: 個々の従業員や部署の業務を細かく分割し、特定の専門的な業務に専念させるべきであるという原則。
  • 効果: 業務の習熟スピードが上がり(経験曲線)、作業効率や専門性が大きく向上する。
  • 弊害: 分業が行き過ぎると、単調な繰り返し作業によるモチベーション低下(人間疎外)を招いたり、他部門の仕事に関心を持たないセクショナリズム(縦割り主義)が生じる。

2. 権限と責任の原則(権限・責任一致の原則)

  • 内容: 人に特定の職務を担当させる場合、その職務を遂行するために必要な「権限」と、結果に対する「責任」は、等しい大きさ(等量)で与えられなければならないという原則。
  • 意味: 責任だけ重くて決裁権限がなければ仕事は進まず、逆に権限だけが大きく結果への責任を負わなければ権力の乱用や無責任な意思決定を生む。

3. 統制範囲の原則(スパン・オブ・コントロールの原則)

  • 内容: 1人の管理者(上司)が直接・効果的に管理できる部下の人数には限界があるという原則。
  • 適正な人数: 業務内容の複雑さや定型化の度合いによるが、一般的に5〜8人程度が限界とされる。
  • 組織への影響: 統制範囲を「狭く」設定すると、管理者は増え、組織の階層は「深く(ピラミッド型)」なる。逆に、IT化や部下の能力向上により統制範囲を「広く」できると、階層は「浅く(フラット化)」なり、意思決定が迅速化する。

4. 命令一元化の原則

  • 内容: 指示系統の混乱を防ぐため、1人の部下は、常に特定の1人の上司からのみ命令(指示)を受けなければならないという原則。
  • 例外: マトリクス組織(後述)などは、この原則をあえて破ることで情報の共有や柔軟性を高める設計である。

5. 例外の原則(権限委譲の原則)

  • 内容: 経営者や上位の管理者は、日常的・定型的な業務における意思決定は下位の者(部下)に「権限委譲(エンパワーメント)」し、自身は非定型的な例外事項(重要な戦略的決定やトラブル対応など)のみに専念すべきであるという原則。

6-2 基本的な組織形態(機能別・事業部制)

企業の戦略(何をやるか)が決まれば、それに適した組織構造(どういう体制でやるか)が決定されます(A.D.チャンドラーの「組織は戦略に従う」)。代表的な形態を見ていきます。

1. 機能別組織(職能別組織)

企業を「製造」「営業」「人事」「経理」といった「機能(専門的な職能)」ごとに部門化する、最も基本的で広く普及しているピラミッド型の組織形態です。

  • メリット:

1. 専門性の向上: 同じ専門家が一つに集まるため、ノウハウが蓄積しやすい。

2. 規模の経済: 全社の例えば「製造」を1つの工場に集約できるため、コスト効率が良い(重複投資がない)。

  • デメリット:

1. トップの負担増: 各部門の利害が対立した際(「もっと作れ」と言う営業と「無理だ」と言う製造など)、最終的な調整と意思決定を行えるのは社長(トップ)だけになり、負担が集中する。

2. セクショナリズム: 自分の部門の利益や目標達成のみを優先し、他部門との壁ができやすい。

3. 次世代リーダーの育成難: 機能(部分)のプロは育つが、全社視点(全体)を持ったゼネラルト(経営者候補)が育ちにくい。

2. 事業部制組織

複数事業を展開する(多角化・グローバル化した)企業が、機能別組織の限界を克服するために採用する形態です。「製品(事業ごと)」「顧客」「地域」などの基準で組織を分割し、その分割された単位(事業部)の下に、機能別部門(製造、営業など)をぶら下げます。

  • 最大の特徴(プロフィット・センター化):

各事業部長には、事業に必要な資源と大きな「権限委譲」が行われます。その代わり、事業部長は売上だけでなくコストも差し引いた「利益(プロフィット)」に対する責任(独立採算制)を負います。

  • メリット:

1. トップの負担軽減: 日常業務や事業戦略の意思決定が事業部長に委譲されるため、トップは「全社戦略(グループ全体の経営)」に専念できる。

2. 迅速な意思決定: 事業部内で自己完結できるため、市場環境の変化に柔軟・迅速に対応できる。

3. 次世代リーダーの育成: 事業部長は「小さな会社の疑似社長」として利益責任を持つため、経営者人材の育成の場となる。

  • デメリット:

1. 経営資源の重複と非効率: 各事業部が別々に工場設備や人事・経理機能などを持つため、全社で見ると二重投資(コストの無駄)が発生しやすい。

2. 事業部間の壁(タコ壺化): 自事業部の利益を優先するため、他の事業部とのノウハウ共有や、画期的な新技術の共同開発などのシナジーが生まれにくくなる。

★ 【カンパニー制組織】
事業部制をさらに推し進め、各事業部を「分社化した一つの別会社(カンパニー)」のように見立てる制度です。事業部制に比べて、さらに大きな権限と責任(投資の権限やバランスシートの責任など)が与えられます(社内分社化)。

6-3 柔軟な組織形態(マトリクス・プロジェクト)

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