事例Ⅳが解けない本当の理由|会計の実務家が見た「計算はできるのに点が取れない人」の共通点
事例Ⅳの計算問題、公式は覚えた。過去問も解いた。なのに本番で点が取れない。会計を専門とする現役診断士が、実務の視点から「本当の原因」を解説します。
正直に言います。事例Ⅳは「計算力」の試験ではありません。
中小企業診断士の2次試験、事例Ⅳ。
受験生の多くが「計算が難しい」「時間が足りない」「公式が覚えられない」と嘆きます。
そして、こう考えます。
「もっと計算練習をすれば解けるようになるはずだ」
私は会計を専門とし、大手企業の経営企画で日々財務分析やNPV計算、CVP分析をやっています。その立場から断言しますが、事例Ⅳの本質は計算ではありません。
計算は「手段」であって「目的」ではない。
ここを勘違いしている限り、いくら電卓を叩いても点数は伸びません。
この記事では、実務で会計を使う人間の視点から、事例Ⅳが解けない「本当の理由」をお話しします。
解けない理由①:「何を聞かれているか」を読み間違えている
計算の前に「出題者の意図」がある
事例Ⅳの問題を見た瞬間、多くの受験生はこう考えます。
「あ、NPVの計算だ。公式に当てはめよう」
でも、実務の世界では計算する前にもっと大事なことがあります。
「なぜ、この計算が必要なのか?」
出題者が聞きたいのは、あなたの電卓スキルではありません。
- この会社は何に困っているのか
- この投資判断は経営上どんな意味を持つのか
- 計算結果からどんな意思決定が導かれるのか
ここを理解せずに計算を始めると、そもそも立式を間違えるのです。
実務ではこうやって考える
たとえば、上司から「この設備投資、やるべきかどうか分析してくれ」と言われたとします。
私がまずやることは、電卓を叩くことではありません。
- 前提条件の確認:投資額はいくらか、耐用年数は何年か、残存価額はあるか
- キャッシュフローの特定:売上増加額、コスト削減額、税金への影響
- 計算手法の選択:NPVで評価するのか、IRRか、回収期間法か
- 感度分析:前提が変わったらどうなるか
事例Ⅳの出題者も、まさにこのプロセスを見ています。
「与件文を読んで、必要な情報を拾い、適切な計算手法を選び、正しく立式できるか」
電卓が速いかどうかは、正直どうでもいいのです。
解けない理由②:「与件文」を読んでいない
事例Ⅳにも「与件文」は存在する
事例Ⅰ〜Ⅲでは与件文を丁寧に読むのに、事例Ⅳになった途端、与件文を読み飛ばして計算に入る人がいます。
これは致命的です。
事例Ⅳの与件文には、計算のヒントが埋め込まれています。
- 「老朽化した設備の更新を検討している」→ 取替投資のNPV計算が出る
- 「新規事業への参入を検討している」→ 増分キャッシュフローがポイント
- 「収益性の低い事業がある」→ セグメント別のCVP分析、撤退判断
- 「資金繰りが厳しい」→ キャッシュフロー計算書の読み取り
与件文を読めば、「何を計算すべきか」が見えるのです。
実務での鉄則:「数字の背景にあるストーリー」を読む
経営企画の仕事で最も大切なスキルは、Excelの関数でも電卓のスピードでもありません。
「この数字は何を物語っているのか」を読み解く力です。
売上が10%伸びている。これは良いニュースか?
——原価率が15%悪化していたら、値引きで無理やり売上を伸ばしているだけかもしれない。
営業利益が黒字だ。この事業は好調か?
——減価償却費を除いた設備投資の回収を考えると、実質赤字かもしれない。
事例Ⅳでも同じです。数字の裏にあるストーリーを読む。それが「経営コンサルタント」としての本来の仕事です。
解けない理由③:「経営分析」を軽視している
配点の3割を占める「第1問」を甘く見ない
事例Ⅳの第1問は、ほぼ毎年「経営分析」です。配点は25〜30点。全体の3割近くを占めます。
にもかかわらず、多くの受験生は「経営分析は簡単だから大丈夫」と言います。
本当にそうでしょうか。
経営分析で問われるのは、単に指標を計算する力ではありません。
「この会社の経営課題を、財務指標を使って的確に説明できるか」
です。
指標の選び方にセンスが出る
たとえば、収益性の問題が問われたとき。
「売上高営業利益率が低い」——これは誰でも書けます。
差がつくのは**「なぜその指標を選んだのか」の説明**です。
- 売上高総利益率ではなく営業利益率を選んだのは、原価ではなく販管費に問題があると判断したから
- 総資産回転率を挙げたのは、遊休資産が多いことが与件文から読み取れたから
- 自己資本比率を挙げたのは、借入依存度が高く財務リスクがあると判断したから
この「選んだ理由」を論理的に説明できる人が、高得点を取ります。
実務で使う経営分析のコツ
私が経営企画の仕事で月次レポートを作るとき、いつも意識していることがあります。
**「比較」と「原因追求」**です。
- 時系列比較:前期比、前年同月比でどう変化したか
- 業界比較:同業他社や業界平均と比べてどうか
- セグメント比較:事業部間、製品間で何が違うか
そして、数字の変化を見つけたら、必ず「なぜ?」を掘り下げる。
事例Ⅳの経営分析も、まったく同じ思考プロセスです。
解けない理由④:「部分点」を取りに行く意識がない
80点を目指すから0点になる
事例Ⅳでよくある失敗パターン。
- 難しい計算問題に出会う
- 完璧に解こうとして時間をかける
- 途中で行き詰まる
- 焦ってミスが連鎖する
- 時間切れで後半の問題に手がつかない
実務で予算策定をやっていて痛感しますが、ビジネスに「完璧な数字」は存在しません。
大切なのは、限られた時間の中で「意思決定に十分な精度」の分析を出すことです。
「部分点」は実務の「概算」に通じる
事例Ⅳでも同じです。
- NPVの計算で途中まで合っているなら、途中の計算過程を丁寧に書く
- CF計算で減価償却費の処理に自信がなくても、わかる部分は確実に書く
- 最終的な数値が出なくても、「投資すべき/すべきでない」の結論は書く
実務では、上司に「まだ正確な数字は出ていませんが、現時点の概算ではNPVはプラスになる見込みです」と報告することはしょっちゅうあります。
完璧な答えが出なくても、判断材料を提示できること。
これが実務家の考え方であり、事例Ⅳで部分点を取る秘訣でもあります。
解けない理由⑤:「財務諸表を読む習慣」がない
計算練習だけでは限界がある
事例Ⅳの力を伸ばす最良のトレーニングは、実は過去問を解くことではありません。
**「実在する企業の財務諸表を読むこと」**です。
上場企業の有価証券報告書はEDINET(金融庁のサイト)で無料で読めます。自分がよく知っている会社の決算短信を読んでみてください。
- トヨタのB/Sを見て、なぜ利益剰余金がこんなに巨額なのか考える
- ソフトバンクのB/Sを見て、なぜのれんがこんなに大きいのか考える
- 任天堂のC/Fを見て、なぜ現金保有がこんなに多いのか考える
こうした「生きた数字」に触れることで、事例Ⅳの与件文に出てくる架空企業の財務諸表も、リアリティを持って読めるようになります。
おすすめの習慣
- 毎朝5分、日経新聞の決算記事を読む
- 月1回、気になる企業の決算短信を読んでみる
- 自分の会社の月次決算資料を、意識して読み込む(可能であれば)
地味ですが、これを3ヶ月続けるだけで、事例Ⅳの景色がガラッと変わります。
まとめ——事例Ⅳは「経営を数字で語る力」の試験
事例Ⅳが解けない本当の理由を5つ挙げました。
- 「何を聞かれているか」を読み間違えている——計算の前に出題意図を掴む
- 「与件文」を読んでいない——数字の背景にあるストーリーを読む
- 「経営分析」を軽視している——指標の選択理由を論理的に説明する
- 「部分点」を取りに行く意識がない——完璧を目指さず、判断材料を提示する
- 「財務諸表を読む習慣」がない——生きた数字に触れて感覚を磨く
お気づきでしょうか。5つのうち、「計算力」に直接関係するものは一つもありません。
事例Ⅳは「計算の試験」ではなく、「経営を数字で語る力」の試験です。
公式を暗記する前に、数字の持つ意味を理解すること。電卓を速く叩く前に、何を計算すべきかを見極めること。
それが、会計の実務家から見た事例Ⅳの本質です。
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